タニコー株式会社

タニコーは業務用厨房機器メーカーとして、お客様のニーズに合った厨房機器及び厨房のトータルコンサルタントを行ってまいります。

こだわり実験室 実験レポート

■ 『スパイの奇妙な休日』

日本とロシアの国境に位置するその島では今まさに激しい情報戦が繰り広げられようとしていた。

緯度43度12分、経度139度28分に存在すると言われる今だ国連にさえ知られていないこの島は、ある研究機関によって完全に支配され、近づこう者があるならば、たとえそれが国際救難信号を発信していようとも、周囲沖16Km四方に設置されたカモフラージュ装置が容赦なく稼働する。それは津波であり、強風であり、時には人食い鮫の大群であり、場合によっては島が動いたり潜ったりもする、それはそれは大変な装置である。
 ここに一人、秘密諜報機関の任から解かれ、バカンスを楽しもうと自分のクルーザーに一週間の荷物を積み込み、この地へ赴きつつある内部調査課職員がいた。彼の名は響野良介。射撃・サバイバルの腕は勿論、組織の中でも3指に入るほどの情報処理技術に関する多様な能力を持ち合わせる。その彼が人生で最も不可解な調査に取り組む事になろうとは、今の彼には努々思うはずもなかった。彼を乗せた船は間もなく日本国北海道沖、ロシアとの国境、その危険海域に差し掛かろうとしていた。

 「ん?なんだ?急に風が・・・。予報じゃそんな事は言ってなかったはずだが」
 しかし彼の舟にしつらえた年代物の風力計や気圧計の針は、間違いなくハリケーンの訪れを予想するに十分な数値を差し示していた。それもかなり大きい。
 「なんてこった!780Hpa・・・龍巻か?!気象部の野郎、また間違えやがって!」
 彼が憤慨するのも無理からぬ事。以前も組織内気象部の予報を信用し、諜報計画の一助とした事があるのだが、それが見事にハズレ。命を落としそうになった経緯がある。だが今回は・・・。
 カモフラージュ装置によって作られた人為的なハリケーンはどんどんこちらに近づいてくる。レーダーにはハリケーンの“目”が無数に確認でき、それらが分離結合を繰り返している。吐き気を喚起させるに十分な光景だった。また、どんなコンピュータを用いても進路を解析することなど不可能である事は明らかだった。こうなると仕方が無い。本部に打電し救助を待つことにした。通信端末に指を置こうとすると、なんとそれが勝手に動き出し何やらしゃべりだした。ボスの声である。

「おはよう響野君。私がプレゼントしたハバロフスクへの4泊5日の旅、いかがかな。この端末を操作しているということは嵐にでも巻き込まれているのだろうか。さて、申し訳ないが君のバカンスはここでひとまず中断していただきたい。本題に移ろう。かの国際的研究機関KGKについては君も聞き覚えがあろう。もっとも我々が知り得ているのは名前だけで私の元にもなんら資料はない。ただ魔の台風スポット、そう、今現在君のいる場所であるが、その中心部にKGK主要研究施設の一つが存在すると言われている。そこで君の使命だが、道すがらKGK研究施設に忍び込み、その存在を証明するための物的証拠を握り世論に公表することにある。例によって君の命の保証は無いが、成功の暁にはハバロフスクへのさらなる旅をプレゼントしよう。なおこの端末は自動的に故障し使い物にならなくなる。成功を祈る」

端末から煙が出た。
端末が壊れてしまった。
成功の暁はどうやって連絡すればいいんだ?
孤独である。
「・・・、ヘンだと思った。あのボスがクーポン券をただでくれるなんて。それもハバロフスクだなんて!」
でも彼はまんまと引っ掛かってしまった。買ったばかりのクルーザーでどうしても遠出をしたかったのである。ハバロフスクのナターシャに会いたかったのである。ただそれだけである。

しかしどんなに後悔しようとハリケーンは待ってはくれない。真っ黒なそれは目の前に迫ってきているのだ。波も25mを越え黒い海底もあらわに連続津波の様相を呈してきた。彼のクルーザーなど「こめ太郎」で洗米中のコメ同様、揉まれ軋み、至る所で浸水し、すでに航行不能となった舟は、もはや沈没など時間の問題と思われた。しかし彼は諦めなかった。おぼつかない足元をもろともせず、修理しながらも水をかき出し、何とか沈没を免れていた。何しろ買ったばかりの舟である。そうやすやすと沈没してなるものかと狂気のごとくハリケーンに立ち向かう。自分の命など二の次であるかのように。だがそれも永くは続かない。自然の猛威は人一人の力などあざ笑うかのようにけちらしていく。

「もはやこれまで」

日本男児宜しく腹を決めた彼は、ボスを恨みつつ、力無く倒れていった。
ところが間もなく奇跡が、彼の前に訪れた。今までの猛烈な風雨は跡形もなく消え去り、気がつくと遠く波間にちらちらと陸が見えた。彼には何が何だかさっぱり解らなかったが、そこには安堵の気持ちと、きらめく朝日の中に傷だらけのクルーザーが1つ漂っているだけであった。

停電である。

KGK島は蜂の巣を突いたような大騒ぎ。朝っぱらから電力喰いのカモフラージュ装置が突然稼働したものだからさあ大変。ちょうど朝食作りの時間と重なり、大急ぎで電磁レンジやフライヤー、コンベクションオーブンやら炊飯器やら、あらゆる調理器具をストップしたが、残念ながら間に合わず発電プラントの一部が能力超過のため焼け焦げてしまった。侵入者がいたが為のカモフラージュ装置の稼働なのに、そんなことには誰も目もくれず、人々は朝飯が喰えないという現実に対する焦燥感に駆られていた。食事とは斯くも人々の精神状態を左右するものなのである。

危機を逃れた響野良介は自分の強運を神に感謝しつつ今後の対策を練った。彼の望遠レンズのような目は、既に島の存在と上陸位置をだいたい把握していた。辺りは朝日に照らされつつあり、この白いクルーザーではあまりにも目立つ。彼は意を決し、慣れた手付きでありったけの装備を身につけ、動かなくなった舟を捨てると、島に向けて静かに潜水していった。

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